《MUMEI》

「生まれてからこの方、何不自由ない生活を送っていると、逆に退屈で死にそうだった。だから今ここで死んだとしても、悔いはなかったんだけどね」

自分の体の傷を見ながら、彼は淡々と話す。

けれどアタシだんだん怒りが募ってきた。

「…アンタさぁ、人生なめてるでしょう?」

「えっ?」

顔を上げた彼の顔を、アタシは思いっきり、

パンッ!

平手打ちした。

「そんなバカな坊ちゃん考えで、簡単に生き死に口にするなっ! 生きることの難しさも酸いも甘いも分かっていないクセに、『死んでもいい』なんて言うんじゃない!」

そして胸倉を掴み、顔を近付けた。

「アンタもアタシも生きるの! これからもずっと、生きていくんだから! そして自分で人生を楽しみなさいよ!」

「…別に生きてても楽しくないんだけどね」

全てを諦めたかのような言い方に、頭にカッと血が上った。

彼はずっと、全てのモノが満たされてきた。

家柄もお金も、容姿も頭脳も運動神経も全て、足りなくて欠けたことなんてなかった。

だからこんなに足りない人になってしまったのか…。

周囲の人から羨ましがられても、彼の心は動かせない。

…ならっ!

アタシは彼の頭を掴み寄せ、彼の唇にキスをした。

「んんっ!」

何度も、何度も!

噛み付くように唇を合わせ、薄く開いた口の中に舌を入れた。

逃げようとする彼の舌を絡めとり、無我夢中で彼の口の中を貪った。

舌で味わう彼の唾液が、とても甘かった。

思う存分彼の唇を味わった後、どちらともつかない唾液で濡れた唇をはなした。

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