《MUMEI》 「…アンタが自分で自分のことをいらないと言うなら、アタシにちょうだい。アタシはアンタに生きててほしい。だからアタシのモノになって、生きなさい」 額を合わせ、間近で睨み付けながら言った。 すると彼は一瞬眼を丸くし、すぐに閉じた。 そしてしばらくして開いた目には、先程の冷たさは無かった。 「…良いよ。それ、おもしろそうだ」 そう言ってアタシの手を取り、甲に口付けた。 「オレの全てはあなたの為に―」 忠誠を誓うような姿に、思わず見入ってしまった。 その時から、彼はアタシのモノになった。 …その後、すぐにレスキューの人に助けられた。 バスは道路に飛び出してきた小学生を避けようとして、壁に突っ込んだらしい。 けれど幸いにも運転手もケガを負ったけれど無事で、誰も死ななかった。 めでたし、めでたし。 ……と、終わるハズもなく。 走馬灯を見終わったアタシは、深くため息をついた。 その後、彼はアタシにまるで執事のように仕えるようになった。 彼いわく、 「だってオレはキミのモノだし?」 …だ、そうだ。 いくら緊急事態だったとはいえ、アタシったら何てことを…。 思い出すと赤くなるのを通り越して、青くなる。 「ううっ…。人生最大の汚点」 「何てことを言うんですか、お嬢様。オレはあなたのモノになれて、とても幸せなのに」 …と、満面の笑顔で言うも、うさんくさい。 「…アンタ、アタシをからかうことに生きがいを感じてるでしょう?」 「とんでもない。オレは」 突然、アタシの手と腰を掴み、引き寄せる。 「キミのこと、結構気に入っているんですから。最期まで、お付き合いいたしますよ」 アタシの左手の指に口付けた後、唇に優しくキスしてくれる。 …まるで結婚式の誓いのキスのように。 前へ |
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