《MUMEI》

去年、欝とパニック障害で入院中、俺は伊藤さんに気合いを入れて下さいと頼んだ。

その時俺、ひっ叩いてくれって意味で言ったんだけど…。






『よしわかった!加藤君にめちゃめちゃ気合い入れてやる!じゃあ来春の俺の舞台に出演決定な!』

『えぇえ?舞台?』

伊藤さんは頷き、

『稽古は12月半ばから始まる、それまでに気合い入れて退院しろ、あと悪いが俺はいいモンしか作らねえ完璧主義者だ。
出来ねえ奴にはいくら加藤君が裕斗のダチだろうが病気抱えてようが容赦しねえ。
どうする?気合い辞退してもいいんだけど、辞退したら何時まで経ったって気合い入んねーままだぜ?』






俺を真剣に見つめながら伊藤さんは力強く言った。



『良いんですか…俺素人ですけど』



舞台なんてまるで経験がない。学生時代だって学校でさえやった事がない。




『は?何ふざけた事言ってんだ?
加藤君ギャラ貰ってドラマ出てる時点でもう既にプロなんだぞ?』






そうか。




俺はただ、テレビに出る事ばかり考えていた。


テレビに出なきゃ芸能人じゃない気がしていた。


そうじゃない。
それは違うんだ。









アイドルの延長で目立つドラマ出てるだけじゃ、旬が過ぎた途端にこの世界から捨てられる。



そんな人間を何人も見てきたじゃないか…。



俺は…、そんなんで終わりたくない



舞台を経験して一皮剥けてみたい。

目立つ事よりも実力をつけたい。


この世界で生きていくための自信がほしい。




『気合いありがとうございます、宜しくお願いします』





俺は深々と頭を下げた。














兄貴の告別式が終わってまた数週間俺は入院して、そして俺は退院の日記者会見をした。





正直に、欝とパニック障害で入院していた事を告白し、病気と付き合いながら仕事をしていく、こんな俺でもみんなに見守って欲しいと訴えた。







想像してたより皆に受け入れてもらえた。





同じ悩みを抱える人から、励まされたとメールを貰った時は嬉しかった。


俺はそんな人達の為にも頑張ろうと思った。

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