《MUMEI》

「…と思っていたのに、なぁんで作っちゃうかなぁ。もう…」

ブツブツ言いながら、紙袋の中身を睨んでしまう。

中身はチョコ入りの箱と、おかき入りの箱。

どちらも手作りだけど、渡すのはおかきだけ!

彼の家に来て、部屋に通されたわたしは、お茶を持ってくると言って出て行った彼を1人待っていた。

「お待たせ」

「あっ、うん!」

彼はホットココアを淹れてくれた。

「あま〜い! あったかーい」

「お前、甘いの好きだよな」

「うん! だって女の子だもん」

「何だそりゃ」

彼は優しく微笑んで、わたしの頭を撫でてくれる。

「えへへ。あっ、そうだ。今日バレンタインデーでしょ? お菓子、作ってきたんだ」

そう言ってわたしは、おかき入りの箱を取り出した。

「じゃーん! はい、どうぞ」

「ああ、ありがと」

彼は笑顔で受け取ってくれた。

ここまでは良し!

彼は箱を開けて見て、笑った。

「ははっ、美味しそうなチョコだな」

「でしょー? 頑張って作ったんだよ、そのチョ…」

…チョコ?

アレ…? 

わたしは慌てて彼の手元を覗き込んだ。

…確かにチョコだった。

わたしの作った、ハート型のシンプルなチョコ。

「えっ…まさかっ!」

慌てて袋の中に手を入れ、もう一つの箱を開ける。

こっちは…おかきだった。

いやん★ 間違えちゃった♪

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