《MUMEI》

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そんなわたしに、伊達さんが、


「宇佐美さん!」


澄んだ声で呼びかけてきた。

振り向くと、彼女はスタジオの端っこに立っていて、わたしに向かって黙って手招きする。たぶん、今、わたしがいる場所は、撮影をするのに邪魔になるのだ。

気がついたわたしは、慌てて伊達さんの方へ駆け寄る。

伊達さんは、また腕時計を見ながら、軽く舌打ちした。


「まだスタンバイ出来ないのかしら。時間、押しちゃってる…」


次の仕事に間に合うかな、とぼやく。

その台詞を耳聡く拾ったわたしは、ビックリした。


「このあとも仕事があるんですか!?」


わたしの素っ頓狂な声に、伊達さんは面くらいながら、ええ…と頷く。


「これが終わったら、まず来月やる握手会の打ち合わせでしょ。それからラジオ局でトークの収録。そのあとは、歌番組の撮りがあって…」


伊達さんは、一通り話し終えてから、めまいがする…と、額に手をあてた。


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