《MUMEI》
バイバイ1
しんと冷える朝。
ベッドの中はぬくぬく。
添い寝がいれば尚更。

「起きろ」

肩を掴んで揺さぶられ、朱星は半ば覚醒した。外気温におののく。目の前に露出された男らしい腕にかじりつき、素肌の気持ち良さにため息をもらした。

「あかほし」
「うるさい」

「お前…」
額に口付け。
温かさに身を寄せると、唇を合わせて咲が言った。

「お前が起こせって言ったんだぞ。司令官を出勤前に捕まえるって」

「あ」

そうだった。
朱星ががばりと跳ね起き、その勢いで咲が転げ落ちた。

「今から行けば間に合うか」
モニターで時間を確認し、タオルを掴み、シャワールームへ消える。

蹴落とされた咲はというと慣れたもので、腰を摩りながら立ち上がり、クローゼットを開いた。きっちりアイロンのかかった朱星の正装を、いくつか見繕う。並べておいて、キッチンへ向かった。

髪をびっしょりと濡らしたまま戻ってきた朱星を着替えさせ、朝食の間に髪を調え、要りそうな荷物をまとめ、持たせる。

慌ただしい朝はいつものこと。
そして玄関口。

普段肩に流している黒髪を結い上げ、濃紺のネコのような瞳に、エンジのリボンがよく合う。

「忘れ物はないか」
「ん」

「こんな急ぎで私用か?」
「私用?両方かなぁ」

衿元を直してやると、要領を得ない答え。

「ありがとう」

最初は有り得ないと騒いだ朱星も、今では自然に行ってきますのキス。

「俺、この仕事辞めるんだ」

「…は!?」

「好きな人ができたんだ!これからそこで働く。人事課はうるさいし、そんなら兄上に言おうと思って」

「えぇ!?」

「じゃ行ってきまーす」

ばたん。
回路の停止した咲を置いて、無情にも扉が閉まった。

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