《MUMEI》

「やれやれ。まさかこんなところで、ボクの正体が映し出されるとは、予想もしていませんでしたよ」

そう言って右手を上げる。

右手は淡い光を放っていた。

そのまま右手を壁に付けると…

ピシピシッ…ドカッ!

壁にヒビが入り、砕け散った。

しかしカルマが手を押し当てていたところには、アンティークの鏡があった。

「盗むことも破壊することも移動することもできず、埋められちゃっていたんですね」

深くため息をつくカルマ。

鏡は埋められていたにも関わらず、その美しさは損なわれていなかった。

金に縁取りされた、丸い鏡。縁には紋様が刻まれており、鏡の面を囲んでいた。

その鏡にはハッキリと映し出されていた。

カルマの真実の姿―【死神】と呼ばれたものが。


「コレもボクの血が作り出す、妙縁なんでしょうかね」

そう言って、鏡を取り出した。

鏡に映るのは、カルマの正体。

「生者の父と、死者の母の間に生まれたのがこのボクですからね。まっ、こっちの姿もアリでしょう」

正確に言えば、カルマは死体となった母から生まれた。

臨月の母は病に倒れ、そのまま亡くなってしまった。

だが父は母やカルマのことを思い、生きたままの姿で埋葬した。

…ところが翌日。赤ん坊の声が墓の下から聞こえてきた。

そう、カルマは死にながらも生まれたのだ。

一度は完全に死んだカルマ。

だが両親の強い思いから生まれたカルマ。

「でも、随分と皮肉な名前を付けられたものですね。気に入ってますけど、ね」

そう言ってカルマは鏡を抱えながら歩き出した。

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