《MUMEI》
魔王とのキス
―ウチの担任は、ハッキリ言ってドSだ。

何故かと言うと、笑顔でスッパリがモットーだからだ。

にこにこ笑顔で、スッパリ人の心を切り裂く。

…げに恐ろしい。魔王だ。

しかも厄介なことに、魔王は外面ともに顔も良い。

…おかげで俺達生徒は誰に訴えかけても、信じてもらえない。

けれど魔王はアメもお使いになる。

うま〜くアメとムチを使い分けるので、まあ人気も高い。

30近くでも、全然高校生とまともに向き合っているしな。

行動的だし、勉強も分かりやすい。相談や悩みもまあ…スッパリ効果のせいか、評判が良いし。


俺の方はといえば―まあまずどこにでもいるような無気力な男子高校生。

飛び出るものがなければ、足りないところもない、フツーの一般生徒。

だから魔王とは、ホントに担任と生徒という間柄しかなかった―ハズなのに。

…何故いま現在、魔王と教育指導室にいるんだ?

それはまあ帰ろうとしたところを呼び止められ、ここへ連れて来られたんだけど…何故だ?

特に問題を起こしたワケでもないのに…。

思い当たるフシが無さ過ぎて、頭が痛い。

「まあリラックスしてください。何も叱りに呼んだわけではありませんから」

生徒にも敬語を使う魔王は、朗らかに言った。

しかし…オーラが黒い。

「はあ…。では何で呼んだんですか? 呼ばれる理由が全然思い付かないんですけど」

俺はハッキリ言った。

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