《MUMEI》

「えっ」

顔を上げると、間近に顔があった。

そのまま―キスされる。

「…っ!?」

離れようとしても、強い力で抱き締められる。

唇が離れても、そのまま捕らえられたまま。

「…いきなり前言撤回って、教師らしくないですよ」

「すみません、でもガマン出来なかったんです」

まったく…。しょうがない大人だ。

「これからもガマンが出来ない時もあるかもしれません。それでも…良いんですか?」

断ればとんでもないことをするクセに。

…そのくらい、俺に夢中のクセに。


「俺だけに、ならいいですよ。他はダメですけど、俺なら良いです」

「フフッ…。なら、キミだけにします」

俺の頬を両手で包んで、先生は微笑んだ。

「キミだけに夢中になります。他の事なんか元々何とも思っていませんし」

怖い人だ。前から知っていたけれど、改めて思う。

「だからキミもわたしだけになってください。わたしのことだけ思って、わたしのことだけ見ていてください」

「…ワガママですね」

「恋愛なんて、そんなものですから」

目も眩むような笑顔で、もう一度キスをする。

ああ…これが魔王に愛される気分か。

不思議と心地良い。

魔王を夢中にさせている自分は、もうきっと、普通では無くなっただろう。

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