《MUMEI》
望みの夜は…
「あっ、ねぇねぇ! コレなんて良いんじゃない?」

「そうね。でもアオイなら、こっちの方が…」

「こっち? そうね、でも色が…」

ルナとヒミカがはしゃいだ様子で、ソウマの店の物を手に取り、見ている。

少し離れたところで、小物屋の店主のソウマとバイトのハズミ・マミヤが立ってその姿を見ている。

「女の子がああいった姿をすると、本当に可愛いですね」

「そうだな。ヒミカもキシと付き合うようになってから、カンジが柔らかくなったし?」

「ルナさんもキレイになりましたね。…でもコッチは…」

マミヤが暗い目で視線を送ったのは、マカだった。

店の角の所には、すっかり茶飲みスペースが出来てしまっていた。

本来ならば売り物のテーブルとイスのセットなのだが、マカが気に入って買い取ったので、ソウマも何も言えない。

そこでパソコンとノートを広げ、ケータイを操作しながら、メモを書いている。

「…あそこだけ、空間が違うな」

「異空間ができてるって! 空気が違うもん!」

マミヤとハズミは、まるでキャリアウーマンのように働くマカの姿に、恐怖を感じていた。


マカから発せられる雰囲気が、とても暗くてピリピリしているからだ。

実際、マカの表情はとても険しい。

「ほっとくと良いわよ」

不意にルナが声をかけてきた。

「年末年始は長達、忙しくなるから。…特に今年は問題が多かったしね」

「…耳に痛い言葉だな」

ルナとヒミカの口元が、わずかに歪んだ。

そしてその歪みは、マミヤとハズミの顔にも出る。

「…それに、マノンのこともあるみたいですしね」

ソウマはマカに背を向け、声をひそめた。

「未だ何の情報も掴めていないそうです。一部の血族の者が、すでに消滅したのではないかと言っていますが…」

「でも相手はマカの双子の弟。しかもその肉体はマカの母上の『呪』によってできたものだからね。…そう簡単には消え去りはしないでしょ」

ヒミカが肩を竦めた。

マカの次に血族で優秀とされている彼女の言葉に、全員が険しい顔になる。

「なあ、マカの母親って、呪いを使うのか?」

ハズミも声を低めた。

「…正確には、強い思いを物に込める能力を使うの。でもその物は、血族の者じゃなきゃ作れない。媒体も特別製じゃなきゃ、彼女の力を受け入れられない。カノンは一見は可愛い女の人ってカンジだけど、マカの実母だからね」

ルナは深く息を吐いた。

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