《MUMEI》
禁断の恋
情熱的な夏希に、美果は舌を巻いた。
「夏希チャン。本当に浮気したなら激怒して当たり前だけど、今回は全くの誤解だから」
「あなたは黙ってて」
「一生後悔するよ」
「え?」
夏希と美果は睨み合った。美果はまずいと思い、智文の腕を叩く。
「ダメだよ、司君黙ってちゃ」
智文の腕をポンポン叩く美果を、夏希は凄い顔で見ていた。
「こういうのって、どうなのかなあ」
ようやく口を開いた智文。しかし言葉の意味がわからない。
夏希はイライラした表情で聞いた。
「美果チャンとは、友達?」
「…そうだよ」
「じゃあ、部屋から出ていってもらって」
「え?」美果も焦る。
智文は真顔で夏希を見た。
「夏希チャンには、帰れる場所がある。彼女は、ないんだ」
「お母さんが本気で追い出すと思う?」夏希は智文を睨む。
美果は、智文の肩を叩いた。
「大丈夫。お母さんに話してみるから」
「ダメだったらどうすんだよ」
「ダメだったら部屋に泊める気なの?」
「泊まんない泊まんない。絶対泊まんないから」
コミカルにオーバーアクションで否定する美果。曇った顔で俯く智文。夏希は二人を見ると、テーブルに両手をついて立ち上がった。
「さようなら」
「ちょっと」
夏希は玄関へ向かう。美果は智文の腕を掴むが全く動きそうもない。
美果は玄関でスニーカーを履いている夏希を止めた。
「ちょっと待って。きょうは帰っていいけど、これで終わりにしないで」
しかし夏希は美果に鋭い目を向けた。魔女も怯むほどの目力。
夏希は智文を見る。美果も一緒に見た。智文は顔を上げない。数秒待ったが、夏希は寂しい顔をしてドアを開け、出ていった。
美果はしばらくドアを見つめていたが、怖い顔で智文に歩み寄る。
叩こうかと思ったが激怒されるのも怖い。美果は話しかけた。
「何で黙ってたの?」
「オレには無理だよ」智文は両手で頭を抱えた。
「何が無理なの?」
「女優の彼氏なんか」
美果も頭を抱えながらベッドに腰かけた。
「全部あたしのせいだ。あたしなんか出て来なければ良かった」
智文は静かに美果の隣にすわった。
「君が出て来なければ、未だに写真集見てるだけだよ」
美果は顔を上げた。
「写真集の中の彼女は天使でしょう。でも、実際会って会話してみたら、自分と同じ人間だとわかる」
智文は美果を見た。
「美果」
「夏希チャンに幻滅しちゃダメだよ」
「まさか」
「司君のこと、本気だからキレたわけだから。あたしを追い出す気はなかったと思う」
智文は、美果の膝を優しく触った。
「美果は、このまま魔法使えないで、人間になっちゃうってことはないか?」
「ないよ」
「人間界でずっと生きる気は?」
「人間は面倒くさそうだからヤダ」
「何だよそれ?」智文は口を尖らせる。「ずっと、この部屋にいてもいいよ」
美果は笑いで誤魔化す。
「女優の彼氏が無理なんて言ってる人が…。魔女となんて、もっと禁断でしょう?」
「禁断かあ。でも美果とはフィーリングが合うような気がする」
怪しい目で見つめる智文の両目に、美果は二本の指で突く真似をした。
「危ない!」
「キャハハハ。目潰し」
「ふざけるなよ、まじめに話しているのに」
ムッとする智文を、美果は怖い顔で睨んだ。
「夏希チャンをふるような男なら、あたしも去るよ」
「美果」
「両方失いたくなかったら、夏希チャン一筋で行きなさい」
智文は意気消沈して俯いた。
「わかったよ」
「わかったなら言うけど、さっきは嬉しかった」
さっき…。どれを差して言っているのかと智文は考えたが、美果が寄っかかって来たので、どうでもよくなった。
「夏希チャン一筋って言っときながら。魔法の国って矛盾が許されてるの?」
「人間界ほどではないよ」

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