《MUMEI》 「相手には相手がいるとか!?」 「いえ、相手の方はフリーですよ」 「なら何で告らないんだよ? ソウマさんなら、すぐにOK貰えそうなのに」 「そう簡単にはいかない相手なんですよ」 ソウマは苦笑して、二人と壁の隙間から逃げた。 「さっ、無駄話はここまでで良いでしょう」 「あっ、最後に質問!」 ハズミが勢い良く手を上げた。 「それじゃあ本当に最後ですよ?」 「分かってるって。…その好きな人って、同属?」 意味ありげに笑うハズミ。 ソウマは目を閉じ、頷いた。 「―ええ。同じ血族の者です」 「そっか。分かった。んじゃ、バイトに戻りますか」 「ボクもせっかく来たことですし、何か買って帰りましょうか。ソウマさん、オススメとかありますか?」 「ええ、ちょうど新作を仕入れたばかりですから」 そう言うと、店の奥へ行き、桐箱を持ってきた。 「あっ、この間マミヤと取りに行ったヤツだ」 ハズミが興味津々といった表情で、近づいてきた。 「はい。マカにも許可を取りまして、商品として売って良いそうです」 「何ですか? コレ」 ソウマはニッコリ微笑むと、桐箱を開けた。 中に入っていたのは、木細工の筒のような物だ。 桐箱をハズミに預け、ソウマは筒を取り出した。 「幻灯筒と申します」 「幻灯筒? 幻灯機ならば知っていますが…」 幻灯機―ランプとレンズを使って、ガラスに描かれた画像を適当な幕に投影する機械だ。 「それの筒版だと思ってください」 そう言ってソウマは筒の上蓋を開けた。 「中が空なのが分かりますね」 「ええ、何も入っていませんね」 前へ |次へ |
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