《MUMEI》

「この筒の中に…」

ソウマは商品棚に置かれた緑色の短くて細いロウソクを、筒の中に入れた。

「ロウソクを入れまして」

次にロウソクの置かれていた棚の隣の棚から、マッチ箱を取る。

「火を付けます。そして匂いが香りだしたところで」

ソウマが右手を上げ、指を鳴らした。

すると店内は真っ暗闇に包まれた。

しかし…。

「…っ!? コレは!」

キシが驚いた顔で、周囲を見回した。

暗闇の店内にいたハズだった。

しかしいつの間にやら、森の中に三人はいた。

木々の匂いに、柔らかくもあたたかな風。

遠くからは鳥の鳴く声や、川の流れる音まで聞こえてくる。

木々の合間からもれる陽の光が、顔に当たり、眩しくて目を細めた。

「この効果はあくまでも、ロウソクに火が付いている状態でしか機能しません。火を消せば…」

ソウマが息で火を消した。

すると周囲は再び闇に包まれる。

そしてソウマがまた指を鳴らすと、明るい店内になる。

「すっげ…! コレが新製品?」

「ええ、良い出来でしょう?」

ソウマは感心しているハズミに満面の笑みを向けた。

「どうですか? キシくん。お疲れならば、この製品で癒されてみませんか?」

「凄いですけど…この製品にはどういった副作用があるんですか?」

キシは放心しながらも、その目には緊張感が滲んでいた。

この店の商品の危なさは、マカからかなりきつく言われていた。

「そうですね。あまり長く使わないことでしょうか? 現実逃避に走ってしまう危険性がありますので」

「ボクにはヒミカがいるので、そこは大丈夫ですよ」

「ええ。それとロウソクを見てほしいんですけど」

ソウマは棚からロウソクを取り、キシの目の前に差し出した。

「このロウソクでなければ、幻灯筒の効果は出ません。しかしこのロウソクは見ての通り、短くて細いでしょう?」

「ええ、かなり」

ロウソクは人差し指サイズしかない。

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