《MUMEI》
それにしても今回伊藤さんと仕事して、伊藤さんの凄さを思いきり知らされた。
去年の12月始めから毎年年末恒例らしい舞台が始まり、それを週3日公演しながら来春の舞台の稽古に入った。
伊藤さんは二股な事をしながらも、とにかく両方完璧に熟した。
納得がいかないと演出家と朝まで討論する。
演技に納得がいかない役者には容赦なく演技指導する。
とにかく舞台にかける情熱がハンパじゃなかった。
だからどんなにどやされても情熱に感動して、引きずられる様にここまで頑張ってしまった。
それは他の役者も同じだった。
伊藤さんは役者として、団長として、とてもカリスマ性の高い人だ。
「伊藤さん、明日裕斗の誕生日ですね」
「あ?うん、まあな…、はは…」
伊藤さんは表情を柔らかく崩し、コーヒーをごくりと飲んだ。
伊藤さんはマジで裕斗に弱い。
伊藤さんがこれまでにない位おっかない顔して稽古してた時裕斗がいきなり稽古場に顔出した事があった。
伊藤さん、裕斗の顔見た瞬間周りがびっくりする位デレデレな顔になって、休憩時間も何時よりうんと長くとっていた。
もう口に出さなくても惚れてますってバレバレで、裕斗も裕斗で何気にやらかしていた。
伊藤さんと話しながら伊藤さんの目元に抜けた睫毛を取ったり、伊藤さんの飲みかけのペットボトルを当たり前のように飲んだり。
まあ、でもあれだけ幸せそうだと誰も突っ込まなかった。
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