《MUMEI》

.

「なんかね、由紀のヤツ、わたしが昔付き合ってた男を、まだ引きずってると思ってるらしくて。いちいちウザいのよ」


厭味っぽく言ったわたしに、晃は神妙な顔をして黙り込んだ。
なにかを考えるような深い色をしたその瞳を見て、わたしは、どうかした?と首を傾げる。

晃は少し迷ってから、

たどたどしく、言葉を紡ぐ。



「…わからないの?」



突然、そう言われて、わたしは眉をひそめる。


「なにが?」


すぐさま切り返すと、晃は弱り切ったように呟いた。


「由紀が、なんでそんなこと言ったのか」



………え?



ますます意味がわからず、わたしは首をひねった。

そんなわたしに晃は苛立ったように口調を強くする。


「由紀はさ、きっと、仁菜のこと………」


言いかけた、その言葉を、最後まで聞くことが出来なかった。

締め切っていたはずの教室のドアが、急に、開かれたからだ。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫