《MUMEI》 . 教室から飛び出して保健室まで向かう間ずっと、小田桐さんはわたしの手を離さなかった。 それは、他のことに気を取られないように注意しているふうでもあったし、 わたしに逃げられないようにしている気もした。 ………そこまでしなくても、逃げないのに。 ソウさんとまた会えるなら、 どこまでだってついて行くよ。 そんなアホなことを考えながら、ようやく保健室へたどり着いた。 小田桐さんはドアを数回ノックして、ガラリとドアを開ける。 保健室には、だれもいなかった。どうやら、養護担当の先生は席を外しているらしい。 わたしが、勝手に入っていいものかひとりで悩んでいる隙に、 小田桐さんは躊躇わず、わたしの手を引いて保健室へと入った。わたしもおとなしくそれに従う。 彼女は奥にあるベッドへわたしを連れていくと、そこに座るように言った。 「とりあえず、ここで寝ててね。絶対、松下さんたちが様子を見に来るだろうから。そのときはタヌキ寝入りするか、具合悪そうにするか、テキトーに対応して」 一通りテキパキと指示をして、わかった?と念を押してくる。わたしはその勢いに押されて、頷き返すのがやっとだった。 わたしが頷いたのを確認すると、彼女は黙って満足そうにほほ笑み、それからクルリと踵を返す。 どこへ行くのかと思い、小田桐さんの華奢な背中を目で追った。 . 前へ |次へ |
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