《MUMEI》
体温計と擬装工作
.

彼女は、まず保健室に設置された戸棚から、凍っていない状態のアイスノンを取り出す。

アイスノンを抱えたまま、窓側へと移動すると、そこに干されていた無地の白いタオルを一枚取り、それ持ってを流し場へ向かう。

お湯の蛇口を目一杯開き、勢いよく吹き出した熱湯に、その乾いたタオルを浸した。

タオルをそのままにして、次に先生のデスクへ向かいアイスノンを適当に置くと、ペンスタンドの中にあった水銀の体温計を、おもむろに手に取ると、両手に包んでしごきはじめた。


それらの一連の行動を、不審に思ったわたしは、なにしてるの?と恐る恐る尋ねると、小田桐さんは眉をひそめ、


「擬装工作。決まってるでしょ?」


あっけらかんと答えた。

わたしは首を傾げる。


「擬装工作って、なんのために?」


分からないので尋ねたら、彼女は、は?と眉間にシワを寄せた。


「中塚さんを病気に見せかけるためよ」


決まってるじゃない!と、またも簡単な口調で言い切った。

思いがけない言葉に、わたしは驚く。


「病気って、なんで!?なんのために??」


素っ頓狂な声をあげると、小田桐さんは面倒くさそうな顔をした。

.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫