《MUMEI》

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彼女は握っていた体温計の目盛りを確認しながら、静かな声で答える。


「…だれにも怪しまれずに、早退するため」


「どうして早退しなきゃならないの?怪しまれずにって、なんで?ソウさんと会うのと、どう関係があるの?」


次々と浮かんでくる疑問を投げかけるが、小田桐さんはいちいち答えるのが面倒になったのか、黙り込んでしまった。

彼女は体温計とぐでんぐでんのアイスノンを脇に挟んで、シンクへ向かうと、蛇口を閉めて、熱いお湯に浸かったタオルを絞る。

湯気があがるそれを、小さく折りたたみながら、わたしが座るベッドへ戻ってきた。

小田桐さんは、体温計・アイスノン・ほかほかのタオルをまるごと全部わたしに押し付けた。

それらを受け取ったものの、やっぱりワケがわからず、目を白黒させていたわたしに、彼女は人差し指を突き付ける。

そして、よーく聞きなさい!と高飛車に言った。


「これから養護の先生を呼んでくるから、アナタはここで病人のフリをしなさい!具合悪そうにして、先生を上手くダマすの!その間にわたしは教室からアナタの荷物を持ってくるから、それまでに早退にこぎつけるのよ!」


いいわね!と、また念を押される。


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