《MUMEI》
クーの過去
クーがその言葉を言えたのには、理由があった。


クーの母親は、オゾンの母親と同じ肺の病で、クーが幼い頃亡くなり


クーの父親は


…自殺だった。


それは、世間一般の自殺とは、少し事情が違う物で


温暖化が進み、海面が上昇し


今は、海に沈んでしまった我が家に


愛する妻と過ごした、その家から離れたくないと


クーの父親は、その場に残ったのだった。


津波ではなくじわじわと、少しずつ迫りくる海水


クーの家は二階建てで、二階部分が無事な時にはクーはそこに父親と住んでいた。


そして、最終的には屋根の上で生活していた。


そんなクーと父親を、地元の人間が迎え


というか、救出に来たのだが


クーの父親は、それを拒絶し、クーだけを救助隊員に渡した。


『ごめんな、クー。父さんは、ここを…母さんの側を離れたくないんだ』


その直後、クーの父親の姿は海に沈んだ。


周りはクーに同情し、その最期の様子を忘れろと言った。


しかし、クーは、忘れたくなかった。


『だって、僕は、母さんが好きな父さんが大好きだったから』


クーの心は誰よりも純粋で強かった。

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