《MUMEI》
8人がかり
夏希は、仙春美を見つめた。
「春美さん。まさかひどいことはしませんよね?」
「あなた次第よ。私の質問に正直に答えたら、乙女の純情は奪わないわ」
夏希は唇を噛み、8人の覆面男を見渡した。皆全身黒装束だ。怖過ぎる。
半裸で大勢の海賊に囲まれても、平然としている勇敢なヒロインを演じたことはあるが、芝居と現実は違う。
大切な体を8人の男たちの目の前に投げ出しているのだ。恐怖で息づかいも荒くなる。
唯一の救いは仙春美も有名人。レイプのような、取り返しのつかない凶悪事件を起こすとは思えない。
「春美さん。質問って何ですか?」
「とぼけた答えを言ったら、あなたの体、彼らに渡すわよん」
「やめてください」夏希はムッとした。
「ふふふ。彼らは夏希チャンの熱烈大大大ファンだから。たぶん素っ裸にされて触りまくられちゃうわよん」
「そんなのファンじゃありません」
「あなた、いい度胸してるわね。楽しみなゲームになりそうね」
夏希は緊張した。仙春美は笑顔で質問をする。
「あなた、友達に催眠術師がいるわね?」
「催眠術師?」夏希は首をかしげた。「や、いませんけど」
「早速とぼけたわね」
8人が動いた。
「待ってください。とぼけてなんかいませんよ」
慌てふためく夏希を無視し、覆面男たちは一斉にくすぐりまくる。
「きゃはははははは、やめ、あはははははは…」
いくら何でも8人がかりはひどい。脇におなかに足の裏まで両側から同時にくすぐられ、夏希の顔は真っ赤だ。声も出せない。本気でもがき苦しんでいる。春美の合図で止めた。
「はあ、はあ、はあ…」
悔しいがここで罵倒でもしたら、またくすぐらてしまう。夏希は身を守るために弱気な表情で言った。
「春美さん。くすぐりはやめて。息できない」
「甘ったれても無駄よ。今度とぼけたら、素っ裸にして1時間くすぐるわよ」
そんなことされたら、たまらない。春美は本気だ。夏希は心底焦った。
「じゃあ夏希チャン。聞き方を変えるわ。あの海水浴場での事件をどう思う?」
夏希は胸がドキドキした。
「あれは、ひどいと思いました」
「私が?」
「まさか。彼女がです」
「じゃあ、あなたは私の味方ね?」
「…はい」
両手両足を拘束されている身では、そう答えるしかなかった。
「実は、あなたとあの女が友達だということは、すでに調べがついてるのよ」
「友達じゃありません」
夏希が答えると、また男たちがくすぐりの態勢に入ろうとした。夏希は慌てて叫ぶ。
「知り合いです、知り合いです、友達ではないという意味です!」
春美は悪魔的な笑顔で夏希の顔を見下ろす。
「あれ、さっき催眠術師なんか知らないって言わなかった?」
「だって、彼女は催眠術師ではなくてマジシャンだから」
「マジシャン?」仙春美は考えた。「あれはじゃあ、催眠術ではなくてマジックの一種?」
夏希は話を続けた。
「あたし、自分のマンションなんかだれにも教えてないのに、彼女は廊下に立ってたんですよ」
「ほう」春美も興味を持って聞いた。
「話があるって言ってきたんですけど、初対面の人を部屋に入れるわけにはいかないから、強く断ってドアを閉めて、確かに鍵もドアチェーンもかけたんです」
「……」
「それなのにドアチェーンはかかったまま、彼女、部屋に入ってきたんです」
「え?」
「これは敵わないと思って…」
仙春美も覆面男たちも少し怯んだ。マジックの域を超えたエスパーだとしたら…。そんなことが頭をよぎった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫