《MUMEI》
二機
 バッグを近くにあった川へ投げ捨て、二人は歩いて地下鉄を目指す。

「けどさ、この駅、けっこう遠いよね」
鍵を眺めながらユキナが言った。
「まあな。でも歩くしかないだろ」
「自転車もダメなの?」
「ダメだろ。最初にあのおっさんが徒歩限定って言ってたし。でも、一時間も歩けば着くって」
「まあ、そうなんだけど」
ユキナはそう言って空を見上げた。

 ちょうど二人が行こうとしている方角の空に、低空で旋回しているヘリコプターが二機見える。
同じ地域に、複数のヘリが飛んでいるなんて妙だ。
「ねえ、あっちって何があるっけ?」
ユキナが記憶を探るように聞いた。
「たしか……、大通り?」
「それってひょっとして、さっき警備隊が言ってたデパートがあるんじゃ?」
「あ、そうかも」
「そうかもって。行くんだよね?あっち」
「ああ」
頷くユウゴをユキナは冷たい視線で見つめた。
「大丈夫だって。デパートを避けて通ればいいんだろ」
「……なんかさ、思ってたんだけど」
「なんだよ?」
「ユウゴってやけに冷めてるくせに楽観的だよね」
「この状況で、悲観的よりはいいだろ」
「……どっちもどっちだよ」
「つか、おまえに言われたくない」
「あっそ」
「いいから、行くぞ」
「はいはい」
二人はバラバラとヘリが飛ぶ空を見上げながら歩き出した。

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