《MUMEI》

やれやれ…。

…随分と珍しい人に会った。

彼女はお地蔵さんに愛されている。

それこそ、強い加護を受けていると言っても良い。

お地蔵さんを拝むことがクセになっていると言っていた。

それが良き方向へと向かったのだろう。

田舎住まいの人なら、何度かお地蔵さんの加護を受けている者を見たことがあるが、彼女は都会育ちに見えた。

それでもなお、アレだけ強い加護を受けているということは…単純にお地蔵さんの好み、なんだろうな…。

彼女、美人だし。しっかりしていそうだし。

…最近の神様は、面食いになったものだ。

思わず遠い目になってしまう…。


山道を少し歩くと、小さな町工場が見えた。

「んっ…?」

しかし何か違和感を感じる。

思わずジッと見ていると、工場の中から数人の作業員が出てきた。

おそらく休憩時間になったんだろう。

タバコを吸う場所に集まり、険しい表情になっている。

「もうこの工場、怖くてたまんねーよ」

「ああ、例の首…また出たんだろう?」

「あの注意報聞くたびに、背筋が凍るよ」

…どうやら怪談めいた話があるようだ。

確かにこの工場、黒いモヤが溢れている。

というより、凝り固まっている。

ここで不幸な死に方をした者がいるんだろう。

「だがこの土地は…」

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