《MUMEI》

「もちろん! はい、コレをどうぞ。父からです」

リンはそう言って、大事そうに抱えていた物を私に差し出した。

私は受け取り、表面の紙を丁寧に外して、中身を確認した。

―丸い鏡―

一転の曇りもない、美しい鏡だ。

手のひらサイズで、装飾は銀。派手ではないものの、細かくて、キレイだ。

そして―強い力が込められている。

「…確かに、注文通りだな」

「ええ。おかげで父は疲れて、眠っちゃいました」

困ったというように、リンは肩を竦めた。

彼女は私の学校の後輩だった。

でもコムラに恋をし、そしてこの山神の子孫であることから、学校を転校し、ここへ引っ越した。


リンの言う「父」とは実父のことではなく、山の主のことだ。

今では神々と人間の橋渡し役を頑張っている。

…その頑張りを、血族共にも見習わせたい!

「マカ、そっちはどう?」

コムラに声をかけられ、現実に戻る。

「まあまあ順調だな。そっちは慌しいみたいだな」

「そうね。でもまた人間達に触れ合うことができて、ちょっと嬉しいかも」

ミトリがはにかみながら言う。

リンの動きは大したものだ。

頑なだった神々と、人間の心を通い合わせているんだから。

…そのうち、何か礼をしなければな。

この頼み物も、リンがいたからできたことだし…。

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