《MUMEI》

立ち止まっていたせいか、不意に後ろから歩いてきた人にぶつかった。

「あっ、すみません」

「いえ、こちらこそゴメンなさい。立ち止まっていたせいで…」

振り返ると、私服の少年がいた。

私と近い歳ぐらいの少年だ。

これから旅行にでも行くのか、大きな荷物を持っている。

「サマナ、行くぞ」

「ああ、今行く。父さん」

少年が父親と呼んだのは、どこか暗い雰囲気を背負う中年男性。

少年と面影が似ていることから、2人の血縁関係が分かる…が。

この2人、かなり重い血の匂いがする。

とても重く、そして古い。

「それじゃあ」

「あっ、はい」

少年と父親は私に軽く頭を下げ、車に乗り込んだ。

…これから向かう所は、決して楽しい所ではないだろうな。

「さて、私も行くか」

街中は通らず、土手沿いを歩く。

「んっ…?」

しかし何かの存在を感じて、土手に目を向ける。

ほんの一瞬、美しい少女を目にした。

見た目15・16ぐらいの美少女だが…すぐに消えてしまった。

土手は今、草木も枯れ、何の植物の息吹も感じない。

そう、今は…。

いずれ時期になれば、あの土の下から芽生えるのだろう。

美しくも禍々しい―死人花が。

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