《MUMEI》

とことこ歩いて行くと、バス亭の前に着いた。

そこでバックから缶コーヒーを取り出し、飲んだ。

…すっかりぬるくなっていた。

間も無く、バスが到着した。

住宅街からも駅からも遠いこのバス亭から、乗客が乗ることはほとんどない。

それもそのハズ。

このバス亭は普通の人間が住む場所からは、隠れて作られたモノ。

だから乗るとすれば、普通ではない人間か、あるいは迷い込んだ人間だけだ。

そのバスに乗り、私は目的地を目指す。

30分ほど揺られると、景色も変わってくる。

山の中を走り、洞窟を通り、再び山の奥深くへ―。

しかし降り立った街は、至って平凡な所。

見た目だけ、はな。

小さな街ながらも、人がいて、賑わっていた。

しかし相変わらず、血の匂いがヒドイ。

まっ、ここはヒミカと同類のモノが棲む街だからな。

しかし街の様子がいつもとは違う。

いつもより活気付いている。

ふと目の前から、一組の家族連れがやって来た。

無表情な父親と、表情豊かな母親。

そして元気な姉と弟の子供たち。

夫婦は子供を間にはさみ込み、一枚のチラシのことについて話をしていた。

「楽しみねぇ、サーカス」

「そうだな。この街に巡業に来るなんて、運が良かった」

「サーカス楽しみぃ♪」

「サーカス、サーカス!」

…一見、幸せそうな家族だが…血の匂いが濃いな。

肉食の家族なのだろう。

人肉を喰らう、肉食家族。

……平凡では決してないな。

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