《MUMEI》
帰り道
昼は急ぎだったが、帰りはそうでもない。

なので普通に帰ることにした。

ナオとは喫茶店で別れたが、電車の時間はまだある。

しばらく街の中を歩くことにした。

そして気付いた。

この街には…あの神社があることを。

私はあの神社に向かった。

駅から歩いて30分。

そこは住宅街になっており、いたって静かな場所だ。

だが…。

向かいから、一人の女の子が歩いてくる。

彼女は私に気付くと、頭を下げてきた。

「こんにちは。今日はどうしたんです?」

彼女の影が、ぐにゃっと動いた。

そして二つの赤い光が、私に向かう。

二つの、赤い目が。

「カウ」

彼女が声をかけると、影は地面から離れた。

そして見る間に一匹の犬となる。

―犬神だ。

「カウ、と言うのか? その犬神」

「はい。生前から呼んでいました」

彼女はあくまでも淡々と話す。

素っ気無いしゃべり方だが、しゃべるだけ良い方だ。

「何か変わったことは起きていないか?」

尋ねると、彼女は首を傾げた。

「いえ、特には…。何か起こりそうなんですか?」

「ちょっとな。騒がしくなるかもしれない」

そう言いつつ、私はバックからナオから受け取った紙袋を取り出した。

「何かあれば、この紙に書いてくれ。折鶴の折り方は知っているか?」

「はい、知っています」

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