《MUMEI》

.

中庭に着くと、由紀は設えられたベンチにかばんを置き、ため息をついた。


「話って、なに?」


淡々とした抑揚だった。いつもの雰囲気とは違って、硬質な表情を浮かべた由紀が、わたしを見つめて尋ねてくる。

わたしはその微妙な空気に戸惑いながら、慎重に言葉を選ぶ。


「…さっきは、ありがとう。廉…北條しつこくて、助かった」


わたしの言葉に由紀は、ああ…と冷たく相槌を打つ。

それから目を逸らすと、べつに、と答える。


「北條のヤツ、完全に面白がってるみたいだったし、あーいうふうにふざけるヤツが俺はキライなだけ」


やっぱり淡々と答えた。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫