《MUMEI》 . 中庭に着くと、由紀は設えられたベンチにかばんを置き、ため息をついた。 「話って、なに?」 淡々とした抑揚だった。いつもの雰囲気とは違って、硬質な表情を浮かべた由紀が、わたしを見つめて尋ねてくる。 わたしはその微妙な空気に戸惑いながら、慎重に言葉を選ぶ。 「…さっきは、ありがとう。廉…北條しつこくて、助かった」 わたしの言葉に由紀は、ああ…と冷たく相槌を打つ。 それから目を逸らすと、べつに、と答える。 「北條のヤツ、完全に面白がってるみたいだったし、あーいうふうにふざけるヤツが俺はキライなだけ」 やっぱり淡々と答えた。 . 前へ |次へ |
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