《MUMEI》
3rd kiss
 「でも、ショコラちゃん、一体どうしたんでしょうね?」
ショコラのチョコレートが甘いソレに変わってから一週間後
仕事からの帰宅途中に立ち寄ったスーパーで、偶然にも遊馬に出くわした
事の次第を大体ココアから聞いたのか心配気な遊馬へ
だがそれは篠原にも当然解る筈もなく
唯々、頼りない笑みを遊馬へと向けるばかりだった
「ココアにも聞いてみたんですけど、やっぱろ解らないらしくて」
そか。……まぁ、暫くは様子見るしかないんだろうな」
「そう、ですね」
買い物を互いに終え、外の自販機にてコーヒーを飲みながら二人話し込む
だがどれほど悩んでみた処で結論など出る訳もなく、コーヒーも飲み切ってしまい、互いに帰る事に
「じゃ、また」
手を軽く振り合うと、篠原はショコラを迎えに村岡の店へ
「お帰り、恭弥」
昨日の今日でやはり元気はなく
そんな様子のショコラへ
傍にいた北沢は普段通り明るい笑みを浮かべながら歩み寄ると
ショコラの手の平へ何かを握らせていた
「シノと二人で分けて食べて。あいつでも食べられるように甘さは控えめだから」
持たせてくれたそれはチョコレートクッキー
これで元気を出してくれ、とショコラの様子がおかしい事に気付いていたらしく柔らかく笑北川へ
ショコラは一礼、篠原は一言礼を言って帰路へと着いた
自宅までの帰り道、走る車内
ショコラは北川から貰ったクッキーを一枚食べてみた
「……甘い」
甘さは控えめだと言ってはいたが
食べてみればそれは随分な甘みで
その甘さが、今のショコラには辛かった
「あんなにも、憧れてたのに」
自分が、甘くないチョコレートだから
誰もが好む甘いチョコレートになれればと以前は思っていた
ソレが、どういう訳か叶ったというのに
「……嬉しく、ない。嬉しくないよ」
「ショコラ……」
篠原のすぐ傍で肩を揺らし泣き始めてしまう小さな肩
見るにいたたまれなくなった篠原は
車を路肩へとショコラの身体を抱きしめて
持っていたクッキーを数枚手掴むとそれを一気に食べて見せる
「恭弥……」
驚いた様に篠原を見やるショコラへ
篠原は残り一枚を自分の唇に挟んで向ける
一瞬首を傾げて見せたショコラだったが
すぐに、そのクッキーへとかじり付いていた
食べれば食べる程、互いの距離が無くなっていって唇が重なる
甘いチョコレートと、篠原の優しさと
与えられる全てが、今は辛く感じる
「……ごめんね。恭弥」
涙で歪むショコラの声が聞こえ
何に対する謝罪なのか問うて返そうとした、その直後ショコラの姿が一瞬にして消えていた
まるで、元々其処には何もなかったかの様に跡形もなく
「ショ、コラ?」
突然空になった腕の中
在った筈の存在
ソレが唐突に居なくなり、篠原は呆然とする
車内を見回してみるがやはりその姿はなく
篠原は車降り、辺りを捜す事を始めた
「……篠原さん?」
当てもなく歩き回る最中
背後から篠原を呼ぶ声に脚を止めた
声の方へと向いて直れば、そこには買い物袋を下げたファファが居て
慌てるばかりの篠原へ、心配気な顔を向けてくる
「……どうか、したんですか?そんなに慌てて」
首を傾げながら問うてくるファファへ
話した処でこの状況の何が変わる訳でもなかったが
胸の内に溜まっているモノを少しでも吐き出してしまえば幾分かはすっきりとするだろうと
篠原はファファへと全てを話し始めていた
「ショコラちゃんがそんな事に……」
「俺、何か悪かったんだろうな。多分、あいつの事考えてやれてなかったからだ」
「篠原さん……」
引き攣った様な笑いを口元へ浮かべて見せる篠原へ
ファファは返してやる様に首を緩く横へと振る
「篠原さんなら、きっと大丈夫」
「は?」
ファファの言葉に、その意味が解らない篠原が聞き返せば
篠原のポケットに突っ込まれたままのチョコレートを指差してきた
「Chocolate fairyは、本当に自分を甘やかしてくれる人の処にしか現れません」
説明するファファは何かを知っている様子で
篠原は当然その事に付いてファファへと問う
「……私も、同じだったから」
「同じって?」
更に詳しく説明を求めれば
ファファは何かを思い出しながら幸せそうな笑みを向けた
「私、cat'sっていう幸せの妖精だったんです」
「幸せの、妖精……」

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