《MUMEI》
スタート1
「代表、また小包が」

青白い顔の部下が丁寧に抱えてきたのは、木製の小箱。初老の女性がひょいと覗き、

「まぁ、変わらず気味の悪いこと。これでいくつ?」
「6つ目です」

「しつこいのね。ありがとう。そのまま遺失物課にまわして頂戴」
「はい」

「若様、どう致しましょう」
「うん」

ソファにどっかりと沈みながら、空を睨む青年。ふわふわの巻き毛は稲穂色で、その瞳は澄んだ海原のよう。ベルカワールドコーポレーション代表取締役、リアシッラである。

尋ねたのは、この道30年のベテラン、側近のミンク。白の混じった髪を左右に分け、みつあみにしている。

「さっきのは何だった」
「牛タンでした」
「タン?」
「冗談ですよ。犬かなにかの、舌だと思います」

「…わかった。任せるよ」

ほほほ、とミンクが笑った。
「イベントまでもう少しもありませんものね。そうおっしゃると思って、手は打ちました」

「何を?」

「雑用は新入りの仕事です。秘書室見習としてひとり雇いましたので」

よそを向いていたリアシッラの目が、心底楽しそうなミンクを捉える。

「中途で?」

「そうですね。聞いてくださいます?前職は王国軍本部の直属兵というので、問い合わせてみましたの」

「そんなの、嘘でしょ」

「本当でしたわ。しかもその軍本部が、とても役に立たない奴だから、送り返してくれと言うんです。だからどんなに役に立つのかと思って、採用しましたわ」

バーゲンでよい買い物をした時のような、晴れやかな顔。

「今回の件は、慎重な対応が求められます。我が社に対する悪質な小包。意図、要求ともに不明。しかも、差出人はかの近江一家。やくざ者相手にあの子、どうするかしら」

「…不安だなぁ」

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