《MUMEI》

「どうする? さっさと言っちゃえば左の耳はなくならないかもしれないけど」
そう言うケンイチの瞳がキラキラと輝いているのがわかる。
早くもう片方も切り落としたくて仕方がない様子だ。
一方の男は息も絶え絶えの状態だが、何も答える気配はなかった。
「んー、しょうがないな」
言いながらケンイチはユウゴに目を向けた。
何か求めているような視線にユウゴは小さく頷いた。
同時にケンイチの手が動き、男が悲鳴をあげる。
「あーあ、早く言わないから耳なくなっちゃったじゃん」
ケンイチは言いながら手に持った小さな赤い塊をシートの下に投げ捨てた。
男は左右の耳があった場所から血を流しながら震えている。
もはや声を出すこともできない痛みなのだろう。
「さて、と。言う気になったかな?」
ユウゴは言ったが男は震えるばかりで反応がない。
そのときふとユウゴは思った。
耳を失っても聴力は大丈夫なのだろうか。
耳のどこで音を聞くかなと、遠い昔に授業で習ったきりだ。
覚えているわけがない。
ユウゴはしばらく考えてからケンイチに声をかけた。
「そのナイフ、ちょっと貸せ」
「えー、俺のなのに」
「すぐ返すから貸せって」
するとケンイチは不服そうな表情をしながらナイフをユウゴに手渡した。

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