《MUMEI》
人質
智文は、一人でコンビニへ行った。美果はベッドにすわり、夏希の写真集を見ていた。
「ふうん…」
浴衣。セーラー服。パジャマ。
いろんなコスチュームを着て、すましたり、笑顔だったり、きわどいポーズを取ったりする。
芸能人は大変だと思う反面、確かに夏希には不思議な魅力があると、美果は感心した。
「司君が夢中になるのもわかるな」
果たしてこのまま、智文と夏希の仲は壊れてしまうのか。しかも自分が大きな原因をつくっているとなると、美果は胸が締めつけられて仕方なかった。
そのとき、美果の携帯電話が振動した。見ると、夏希ではないか!
「夏希チャン?」
『……もしもし』
知らない女の声。美果は唇を結んだ。
『美果さん?』
「あなたは?」
『私がだれだか、わかる?』
美果は考えた。夏希のマネージャーか。落ち着き払った声と喋り方。マネージャーとは違う。
「すいません、わかりません」
『ふふふ。仙春美よ』
「はっ!」美果は目を見開いた。
『夏希チャンは預かってるわ。あなた、迎えに来てちょうだい』
「どういう意味?」
『あなたとお話がしたいのよ』
「夏希チャンを出して」
『彼女は今電話に出れない状態なの』
美果の胸の鼓動が高鳴る。
「出れないってどういうこと?」
『夏希チャンは今ね。両手両足を固定されて大の字よん』
「!」美果の額に汗が光る。
『何とブラとパンツだけよ。しかも男たち8人に囲まれているの。スリル満点でしょ?』
美果は怒鳴った。
「やめなさいよ、そういうことは!」
『それは、命令?』
まずい。ここは相手を刺激してはいけない。
「違うわ。お願いをしてるんです。夏希チャンは関係ないんだから、ひどいことはしないで」
『じゃあ、一人で来る?』仙春美はほくそ笑んだ。
「わかった。一人で行くから、夏希チャンの声を聞かせて」
『…いいでしょう』
仙春美は、夏希の耳もとに携帯電話を持っていった。
『美果チャン?』
「夏希チャン、大丈夫?」
『ごめんなさい、あたし…』
「そういうのはいいから。助けに行くからおとなしくしてて。ヘタに逆らっちゃダメよ」
夏希が返事をする前に、仙春美が話し出した。
『では場所を教えるわ。警察の影がちらついたら、夏希チャンの乙女の純情の花も、散るわよ』
「それだけはやめてください。頭を下げます。この通りです」
美果の態度に、春美は勝ち誇った。
『なかなか友達思いなのね。いいわ。では場所は……』
美果は場所を聞くと、電話を切った。
大変なことになった。魔法を使えれば何でもないことだが、今は普通の女の子でしかない。
しかし、行くしかない。
美果は、おなかに手を当てた。たまらない緊張感。ギャングではあるまいし、まさかそんな酷いことはしないと思うが…。
美果は不安と恐怖を振り払うように、震える膝を叩いた。

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