《MUMEI》
新たな場所
バスで行ける所に、その現場はあった。

バスから一歩降りると、見渡す限りの山々。

足元にはウサギが駆け寄ってきた。

真っ白な体に、真っ赤な両目のウサギだ。

ウサギは視線で、バス停の隣に設置された無人の野菜売り場をさした。

…買ってくれってか?

こんな真冬でも、野菜は売っていた。

ウサギの懸命な視線に負けて、ニンジンを一山買った。

3本で100円か。まあ安い方かな。

「ホレ、食え」

1本をウサギに差し出すと、喜んでカリカリ食べ始めた。

1本を食べ終えたところで、また1本差し出す。

食べている姿がおもしろくて、3本一気に食べさせてしまった。

…まあ野菜だし、大丈夫だろう。

「さてと…」

行かなくてはな。

しかし靴に何かが乗っかった。

…ウサギだ。

真っ赤な目で私を見上げている。

「…ここに行きたいんだが、分かるか?」

私はポケットからメモを取り出し、ウサギに見せる。

ウサギはじっと見つめた後、動き出した。

私はウサギの後を追った。

ウサギは山の中を歩き、山道をちゃんと歩く。

そしてしばらく歩くと、山の中に村を見つけた。

ウサギは通りすがりの村人の足に蹴りを入れた。

「あいてっ! 何すんだ、このバカウサギ!」

「あ〜、許してやってくれ。案内役を頼んだのは私だ」

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