《MUMEI》

声は弾んでいるのに、表情は複雑そうだ。

…まあオレと何としても繋がりが欲しいと思うのなら、妥協してしまうだろう。

いきなり恋人は…ハードル高い、のか?

思わず首を傾げてしまう。

「あっ、アレ? どこに入れたかな」

彼はカバンの中身を探っている。

けれど、気付いてしまった。

手が震えている。とても強く。

考えてみれば、今日はじめて会話をした。

そしてすぐに、告白。

言われた方はただ唖然とするだけだが、言う方はかなりの勇気が必要だっただろう。

そんな彼を見ていると…何となく、胸の辺りが熱くなる。


「ごっゴメン! ケータイ、学校に忘れてきたかも。悪いけど、このメモに書いて…」

そう言ってこちらを向いた彼に、オレは―キスをした。

ベンチに手を付いて、身を乗り出すようにして、彼の唇に触れる。

―『焼きスイートポテト』の味がする。

思わず笑みがこぼれる。

「…えっ? ええっ!」

彼はまた真っ赤になった。

慌てている間に、オレは彼の手からメモ帳とペンを奪って、ケータイのナンバーとメールアドレスを書き込んだ。

「はい」

「あっありがとう…」

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