《MUMEI》

自己防衛の為か、未来予知者は自分の未来を視ることはできない者が多い。

彼女もまた、そういうタイプだったのだろう。

「2人とも、まるで闇に飲み込まれたようでした。音も気配も無く、いなくなってしまいましたから…」

ソウマの報告では『影』と言っていたが…。

まっ、この場合、同じ意味だろうな。

『影』も『闇』の一部だから。

「その後、いくら捜しても二人は見つからず、諦め始めています」

「そうか。状況は良く分かった」

私は青年に肩を竦めて見せた。

「ちなみにその前に、村に何か起こらなかった?」

「…いえ、特には…。あっ、でも…」

青年は何かを思い出したように、眉をしかめた。

「数日前から、この湖で若い青年をよく見かけるという報告が入っています。この二日間はありませんが…」

「若い青年? …どういうカンジのだ?」

「顔は分からなかったらしいです。何でも黒いズボンと黒いコートを着ていて、その上フードをかぶって顔を隠していたらしいですから」

黒尽くめの服装に、顔を隠す仕種…。

そして『闇』を使う者。

―間違いない。マノンだ。

アイツがここで動いたんだろう。

「そうですね…。彼なら、暗い闇の中でも自由に動けるでしょう」

青年の言葉に驚いて、顔を上げた。

すると青年は苦笑した。

「まっ、今では全てが遅いことだと思います」

「…そうだな」

足元のウサギが、じっと私を見上げていた。

「ん? どうした? もうニンジンはないぞ?」

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