《MUMEI》

「…も、良いです」

「そっか? そんで、何の話なんだ?」

この人には言葉よりも、行動で伝えた方が良いみたいだ。

「ちょっと屈んでもらって良いですか?」

「こうか?」

ムカツクことに、先輩の方がオレより頭一つ分身長が高い。

なので顔の位置がちょうど良くなったところで、オレは先輩の頭をガシッと掴んだ。

そして―キスをした。

唇をただぶつけるようなキスを。

「っ!」

そしてすぐに離れる。

「―オレの言いたいことは、コレだけです」

そう言って部室から飛び出した。

「おっおいっ!」

そのまま廊下を走り出す。

「待てって!」

でも10メートルしか進んでいない所で、先輩に捕まってしまった。

後ろから抱き締められ、先輩の匂いや体温を感じてしまって…オレは逃げられなかった。

「…すみません」

「何で…謝るんだ?」

「先輩、彼女欲しいって言ってたのに…キス、してしまったから…」

「そんなのダチとの会話の社交辞令みたいなモンだ。…本当に欲しいなんて、思っちゃいない」

オレを抱き締める先輩の腕に、力がこもる。

「…それで、俺に言いたいことって?」

「えっ?」

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