《MUMEI》
車の中
.


廉を迎えに来た伊達さんが運転する車の中では、異様な緊張感が漂っていた。

伊達さんはハンドルを握り、フロントガラスを睨みつけながら、それで?と、低い声で尋ねる。


「…なんで、宇佐美さんも一緒なのかしら?」


明らかに歓迎されていない言い方に、わたしの気持ちは萎縮して、思わず肩をすぼめた。

不機嫌そうな伊達さんの背中に向かって、後部座席に座っている廉は、だからさ〜!と、あっけらかんと答える。


「もう連れて来ちゃったんだし、今さらあーだこーだ言ったってしょーがないじゃん?」


開き直った廉の態度に呆れたのか、伊達さんは荒々しいため息をつき、あのねぇ…とぼやいた。


「これから仕事なのよ?遊びじゃないの!それくらい、わかってるでしょう?」


咎めるように言った彼女に、廉はシートに深くもたれて、ハイハイ、とテキトーに受け流す。


「よーくわかってますって。仕事でしょ、シ・ゴ・ト・ッ!!いつも通り、上手くやるからさ〜」


機嫌直してよ、とため息まじりに呟いた。


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