《MUMEI》

話し辛いのか、バツの悪そうな顔
しかしその程度で遠慮してやる畑中ではなく、更に追及してやった
その追及に、母親は仕方がないと話す事を始めていた
「今日の新聞は見たかしら?」
「新聞?ああ、買収の記事の事か。見たけど、それで?」
「……その会社は、さっきのあの子、小林 和泉君って言うんだけど、その御両親が営んでいたモノだったの」
「へぇ」
「今回の買収自体は現社長の父親である会長からのからの申し出だったのだけれど」
「社長自身には何の断りもなく、会社が人手に渡ってしまったショックで自殺した、と?」
言葉を先読みしてやれば母親は頷いて
飛びだした時に開きっぱなしになっていた戸を眺めながら
「その所為であの子は誰も信用出来なくなってしまっているの。唯一の身内である、会長の祖父ですら」
声に溜息を含ませながら
そして徐に畑中へ向いて直ると
「和志さん、お願い」
唐突に頭を下げてきた
一体何かと訝しめば
「……あの子を、守って上げて。お願い――」
懇願された
だが畑中自身すら拒絶してしまう相手にどう手を差し伸べればいいのか
解る筈もなく、髪を掻いて乱すばかりだ
「どうしろってんだよ……」
その本人の姿は其処には当になく
深々しい溜息をつくと、母親に帰る様言い放ち、一応は探してやるため外へ
「あの、クソガキ……」
畑中は低く呟くと
飛び出しっていったその小林の姿を追ってやるため外へ
そして、その姿はさして探す事もなく見つかった
「……何か、用かよ?」
小林が居たのは、昨日と同じ場所
畑中は溜息を吐くと
その傍らへ壁を背凭れに立つ
何を言う事せず唯立ち尽くすばかりの畑中へ
小林は段々と苛立ちを顕にしていった
「何なんだよ、テメェは!?」
向けられるのは相変わらずの拒絶
僅かに畑中はため息をつくと、唐突に相手の手首を強く握り返す
「……喚くな。クソガキ」
それだけを言って向け、畑中は小林の手をそのまま掴んで、何処かへと歩き始めた
「は、離せよ!どこ連れてく気だ!?」
「俺の家」
「何で!?俺はテメェの家になんて用はない!!」
「俺は喚くなって言ったと思うが?」
脚を止め踵を返すと、畑中は小林の顎を徐に掴み上げ
自身の方へと上向かせる
視線が正面から重なり
変わらずに向けられてくる敵意に畑中は苛立ちを覚える
暫く無言で睨みつけた後
何か言いかけたその唇へ、噛みつくようにキスをしていた
「!?」
小林の眼が驚きに見開かれて
畑中から逃れようと暴れはじめるその身体を、手首を掴んで戒める事で押さえつけてやる
人の往来が多い表通り
行き交う人が皆、その二人のやり取りを怪訝な顔で眺めながら通り過ぎて行く
「……戻るぞ」
これ以上、この場で騒ぎ立てるのは得策ではない、と
有無を言わさず、畑中は小林の手を引いて歩き始めていた
小林はやはり喚く事をしているが、最早それを怒鳴る事さえも面倒だ、と
早々に店へと戻り、まだ早い時間にcloseの札を戸に掛けていた
二階の自宅へと小林を引き摺って上がり
ソファへとモノを扱うかの様にその身を放り出すと
上から押さえつけてやるように圧し掛かる
「な、何する……!?」
文句をやはり喚こうとする小林へ
化粧を落とし、長く降ろしていた髪を適当に括った、女顔ではない畑中の顔が近く迫った
唯腹が立った
向けられる敵意
そして子供の身が持つ事の出来る、取り繕う事のない剥き出しの感情に
「……選ばせてやる。女の恰好した俺に犯られるのと、男のなりしてる俺に犯られるの、どっちがいいか」
「どっちも、嫌だ……」
未だ消え失せることない敵意に
畑中は舌を打つと、突然今身に付けている女性的な服を脱いで捨て
小林を捕らえたまま、手近に放り出してあったシャツとジーンズに着替えていた
それまでの格好とは全く違った、男としての畑中の姿が其処にあった
「和泉」
「気易く、呼ぶんじゃねぇよ。オカマ野――」
悪態を吐くその声が、途中途切れる
呼吸すらままならない程執拗な口付けに
小林はその息苦しさに、畑中の背を強く殴りつけて解放を訴えた
「離せ、よ」
「何で?」
「嫌、だから。嫌い、だから」

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