《MUMEI》

ユウゴはナイフについた血を散らすように軽く振ってから男にその先を向けた。
「あのさ、あんまり時間かけたくないんだよ。俺たちの目的はあんたを拷問することじゃないからさ」
言ってユウゴはナイフを男の鼻に近づけた。
「あの男のスケジュール、五秒以内に答えないと鼻と目がなくなる」
しかし男はユウゴを見つめたまま、微動だにしない。
やはり聞こえていないのだろうか。
そう思いながらユウゴは秒読みを始めた。
「五、四、三、二……」
「七九七九だっ!」
突然男が叫んだ。
ユウゴは笑みを浮かべて男を見つめる。
「それが、なんだ?」
「な、七九七九が携帯の暗証番号だ。携帯の、カレンダーのところにすべて書いてある。だから……」
「だから?」
「助けてくれ」
震えた男の声を聞きながらユウゴはナイフをケンイチに返した。
「あとはおまえの好きにしろよ」
「え、殺してもいい?」
「ああ、いんじゃね」
「そんな!」
男の悲痛に満ちた声を聞きながらユウゴは前を向き、携帯に番号を打ち込む。
「七九七九……。くだらねえ。語呂合わせかよ」
まさに今の男にピッタリだと思いながらカレンダー機能を開く。
そこにはびっしりと実川の行動スケジュールが書き込まれていた。

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