《MUMEI》
デビュー
重役会議。
昼食会。
企画会議。
現場視察。
接待。

メールチェックから始まる1日は、来る日も来る日もぎっしりだ。
たまに不憫がられることもあったが、祖父母と父母を見て育ったリアシッラと、それを支え続けてきたミンクにとって、それが当然であり、日常だった。

そのかわり、息がつきたいときは、自由に出かけてもよいという暗黙のルールがある。
リアシッラは度々ふらりと散歩へ出た。ウェルカは姿を見せないまま。

「行ってくるよ」
「はい。若様の放浪癖も、ウェルカがいれば安心ですわね」

「お傍におります」
「頼もしいな」

薄暗いオフィス街で、その黄金色の髪は目を引いた。本人は気にするそぶりもない。人形のような容姿は生れつきである。

「若様」
「何?」

稀にウェルカから声をかける。

「どちらへ?」
「川のほう」

通りを直進すれば、すぐ川にあたる。何かよくないことがあるのかと、リアシッラが歩を止めた。

「でしたら、次の十字路を曲がっていただけませんか」
「だいぶ遠回りだね」
「お手数ですが」

「何かいるの?」
「は、良からぬ連中が」
「ふむ。手遅れみたいだ」

ひとり立ち止まるリアシッラを囲むように、男が4人、寄ってきた。

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