《MUMEI》
10.
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温泉旅行前日

丈の会社は月末の締日と連休前が重なり大変な忙しさだった。
そんな中で俺は部長に呼ばれた。
一緒に9階の会議室へと向かった。
会議室に入ると専務と常務が座っていた。
ただならぬ雰囲気に一気に緊張した。

専務「ご苦労様。座りたまえ。」

常務は怖い顔で腕組みをしている。

専務「部長から色々と話は聞いている。安野君、君は優秀な社員だと思っていた。しかし、ここ最近の君の勤務態度は全くなっていない。元の優秀な君に、いつ戻ってくれるのかと期待して見ていたが…君も分かるだろうが、この不景気だ。我社も余裕があるわけではない。他の社員は必死に頑張っている。このまま君だけを大目に見る事は出来ない。分かるね?」

丈「は、はい…」

専務「残念ながら君を今日付けで解雇する。我社としても苦渋の決断だ。分かってくれたまえ。」

常務「部長、後は頼みましたよ。」

部長「は、はい。分かりました。」

二人は会議室を出て行った。

部長「安野…仕方ない事だ、とにかく1からやり直せ。会社から退職金が出る。この不景気だから本来は難しい所だが、お前は結婚しているし優秀な社員だったから特別だそうだ。退職金で暫くゆっくりして、また頑張れ。」

丈「は、はい。」

丈 は返事をしたものの頭の中は真っ白になっていた。
部長も会議室を出て行った。
丈 は暫く座っていたが、ゆっくりと立ち上がった。
戻った部所には誰もいなかった。
壁に掛かっている時計を見ると12時を少し回っていた。
丈 は少しホッとして荷物を素早く片付け誰にも会わないように会社を出た。



真理は楽しそうに旅行の準備をしていた。
天気予報は連休中は良い天気だと言っていた。

真理「もしもし。どうしたの?」

徹からだった。

徹「声が随分、楽しそうだな。」

真理「分かる?だって明日でしょ。」

徹「俺も嬉しいよ。そこで相談なんだが、明日の朝じゃなくて今晩、出発しないか?」

真理「今晩!?また急なのね。」

徹「天気がいいらしいから星でも見ながら、ゆっくりドライブなんて、どうかと思って。」

真理「素敵!分かった。なんとか今晩に出れるようにするわ。で、何時にする?」

徹「そうだなぁ、20時にしよう。それで、どこかで食事しながら行こう。」

真理「分かったわ。」

徹「じゃあ、いつものバス停で。」

電話を切った真理は 丈 に何て言おうかと迷っていた。
そこに、また携帯電話が鳴った。
丈 からだった。
ビックリしながら電話に出た。

丈「もう、ご飯は食べた?」

時計を見ると12時40分だった。

真理「まだ、これからよ。お昼休みに電話してくるなんて珍しいわね。」

丈「そうだね。」

丈 は、まさかリストラされたなんて言えなかった。

真理「どうしたの?」

丈「あっ、いや、明日は旅行だったね?」

真理「うん。そうだけど、そうそう、それなんだけど…」

真理が話してる途中で 丈 は遮った。

丈「今夜は、かなり遅くなりそうなんだ。」

真理「遅くなる?何時頃?」

丈「分からない。」

真理「そうなの?それじゃあ私、友達と夕飯を食べに行ってきてもいい?」

丈「友達?」

真理「うん。明日、旅行に行く友達となんだけど」」

丈「それなら夕飯を食べて、そのまま旅行に行ってもいいんじゃないか?」

真理「それもそうね。友達に話してみるわ。」

丈「その方が楽だろ。」

真理「分かったわ。夕飯は作っておくから。」

丈「いいよ、いいよ。遅くなるから食べて帰るよ。旅行、気をつけて。」

真理「有り難う。」

真理はホッとしながら電話を切った。



つづく

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