《MUMEI》

「移動が多いな」
ユウゴは呟きながら考える。
狙うとしたらやはり移動中がいいだろうか。
しかし、この男を拉致した時点で向こうも警戒を強めているはずだ。
警護の数も増えているかもしれない。
ライフルでもあれば遠くからの攻撃も可能だろうが、あいにく手元にあるのは拳銃やナイフといった比較的近づかなければならない武器ばかりだ。
もっとも、たとえライフルを持っていたとしても狙撃できるほどの腕はユウゴたちにはないだろう。
近距離まで近づくには移動中は難しい。
そう思ったとき、明日の日付のところに講演会という文字を見つけた。
場所は公民館のようだ。
講演中ならば警護も離れるだろう。
問題はその公民館の場所がわからないということだ。
ユウゴは男に場所を聞いてみようと後ろを振り向いた。
後部座席ではケンイチが男の口に布を詰め込んでいるところだった。
男は顔中を血に染めて俯いたまま、抵抗もしていない。
その目は虚ろですでに死んでいるように見える。
「なんだよ?」
ケンイチが首を傾げる。
「いや、生きてんのか? そいつ」
「ああ、ギリギリ」
「ふうん。で、おまえはとどめをさすつもりなんだな?」
ユウゴが言うとケンイチは大きく頷いた。
ユウゴはもうこの男に何を聞いても無駄だと判断し、助手席の窓を少し開けた。

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