《MUMEI》
詰み
デブンはためらうことなく左手でショーツを掴み、ハサミを近づけた。
「やめなさいよ」美果は赤い顔をして身じろぎする。
「じっとしてろ。大事なところ傷つけてもいいのか?」
まさか下半身を晒すことになるとは。美果は横を向いて唇を噛む。仙春美は美果の表情を勝ち誇った笑顔で見ていた。
そのとき。
真っ白なものが凄い勢いで噴射された。皆は魔法だと思って慌てて美果から離れた。
「何だ何だ?」
犬は危険なものだと判断したのか、素早く部屋の外へ逃走した。
「あああああ!」
叫び声。魔法ではない。若い男が消火器を噴射している。
「だれだ貴様!」
「あああああ!」
「よせ、やめろ!」
美果は男を見た。
「司君!」
そこへ夏希が走り寄ってきた。
「美果チャン」
「あっ、夏希チャン」
夏希はベルトを外して美果を抱き起こした。
「ああ、女を逃がすな!」
突進する黒覆面。夏希はとっさに、近くにあった缶を放り投げた。
「どわあ!」
男はバターまみれ。夏希は美果の腕を引いて走った。
「こっちよ」
智文も消火器を噴射し終わると、走って来る男の顔面に投げつけた。
「NO!」
命中。スローモーションのように倒れた。デブンが怒る。
「遊んでんじゃねえ。追え!」
夏希を先頭に長い廊下を走る。美果が走りながら言った。
「二人ともありがとうと言いたいところだけど、欲を言えば犬に舐められる前に助けてほしかったな」
「ゴメン」智文が謝る。
「贅沢は言わない」
「じゃあ夏希チャンもバター犬味わってみる?」
「遠慮しとくわ」
「危うく裸にされるとこだったんだから」
ドア。智文が開ける。開かない。
「まずい。鍵がかかっている」
「嘘」夏希も必死にノブを引っ張るがびくともしない。
「あっ!」
三人は後ろを振り向いた。仙春美と黒覆面軍団が来る。
「チキショー」
智文が一歩前に出る。しかし屈強な大男8人を相手にするのは厳しい。
詰みか…。
「待って。ここはあたしが」
夏希が智文の前に出た。敵味方双方が夏希を見て驚いた。
覆面男二人が夏希の前に出る。夏希はくるっとターンしてボディにバックキック!
「ぐえ!」
男は両手で腹を押さえながら倒れた。
「テメー!」
もう一人が殴りかかるが夏希のパンチのほうが速い。顔面に右ジャブ左ジャブ、後頭部に右ハイキック!
二人ともあっという間にKOした。男たちは硬直し、智文は満面笑顔。
「つおい」
しかし美果は心配顔。
もう二人。覆面男が来た。突進。寸前でよける夏希。男が体勢を崩す。先にもう一人のボディに左ミドルキックから顔面に右ハイキック!
残る一人にゆっくり近づくと首相撲から顔面膝蹴り。右ローキック。服を両手で掴んで投げ倒した。
仙春美は叫んだ。
「デブン!」
「よし、俺様が相手になろう」
デブンが一人、巨木のように夏希の前に立つ。夏希は緊張した面持ちで両拳を構える。
大きさに怯んではいけない。大きいから強いとは限らない。
「なかなかやるじゃねえか。女」
「……」

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