《MUMEI》

聞かされたその事実に、だが篠原はさして驚く事はなかった
ファファが持つ独特で柔らかな雰囲気に納得さえしてしまう
「篠原さん」
「何?」
「見つけてあげて下さい。ショコラちゃんはきっと篠原さんのすぐ傍でずっと待っている筈です」
きっと大丈夫、と改めて微笑んでくれるファファへ
篠原も漸く口もとの強張りが解れ、何とか笑みを浮かべる事が出来ていた
「ありがとな」
短く礼を言ってやり、ファファの頭で手を弾ませて
早々に踵を返すと篠原は車へと戻る
帰路を急ぎながら
途中、コンビニへとまた立ち寄っていた
「お会計、1540円になります」
買い込んだのはチョコレート
ショコラと出会ったきっかけのソレをまた食べてみれば何かあるのでは、との安易な考えで
でかくなってしまった買い物袋を下げ漸くの帰宅だ
相も変わらず空の部屋を暫く眺め
そして買ってきたチョコレートをどうしてかぶち撒けていた
甘い香りが同時に漂い始める
「……何、やってんだか」
床一面に広がったチョコレートを見
女々し過ぎる自分に向けてやる嘲笑
引き攣った様な笑い声が、また口を突いて出た
立っているのが億劫に感じられ、三和土に座り込んでしまう
「シノ、居るか?」
暫くそのままでいると、誰か来たらしく戸をた叩く音
篠原は立ち上がると、一応は戸を開いてやる
「田畑……」
「見事にヘコんでんな。大丈夫か?」
訪ね人は田畑
どうやらファファから話を聞いてきたらしく、心配でわざわざ訪ねてきたらしい
項垂れる様な篠原の様子を見、田畑はその向かいに膝を折る
「テメェのそんな面久しぶりに見たな」
「……わざわざ冷やかしに来たのか、テメェは」
「悪ィが俺もそこまで暇人じゃねぇよ。唯、ヒントやりにきただけだ」
「ヒントだぁ?」
「あのチビ、大事なんだろ?だったら、呼んでやれ」
散らばったままの大量のチョコレート
その中にある中の一つを田畑は指差す
篠原へと差し出して見せたそれは
篠原とショコラ、二人が出会うきっかけになったチョコレートだった
田畑はそれを示してやると、篠原宅を後に
その背を見送ると、篠原は床に散らばったままのチョコレートを手当たり次第開いていく
甘いも苦いも関係なく
全部を食べ始めていた
当然途中で胸が悪くなり、トイレへと駆け込んで
それでも篠原は食べる事を止めはせず
「……呼べば戻ってくるってのか?」
チョコレートの残骸に囲まれたままの自分がひどく惨めだった
たかが一人、傍から人が居なくなっただけだというのに
何を此処まで必死になっているというのか
傍から見れば、ひどく滑稽にしかその姿は映らない
そんな自分を更に嘲笑った、そのすぐ後
(……呼んで、ほしい)
ささやかな声が微か、何処からともなく聞こえた様な気がした
しかし辺りを見回してみても当然誰の姿もなく
篠原は溜息をつくと漸く立ち上がり、靴を脱ぎ棄て家の中へ
背広を着替える事もせず、ベッドへと倒れ込んでいた
横になれば、一日の疲れにすぐ眠気に襲われる
少しだけ寝てやろう、と
篠原はその眠気に逆らう事無く、眠り込んでいったのだった……

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