《MUMEI》

「・・・・・・そんなこと言われたら、悩んでたのが馬鹿みたいじゃない」

「え?何か言った?」

秋葉がボソッと呟くと、今宵は聞き返した。

「何でもないわよ!!じゃあ私は遠慮無くいかせてもらうから!!」

「わああああ!!それはダメ〜!!」

「何言ってんのよ。私あんたに負けるわけにはいかないの。ただでさえ、『幼馴染』よりあたしの方が不利なんだから!!」

「どういうこと?」

「だから、『幼馴染』はいつも一緒にいてもいいし、一緒に帰れる。そしたらあたしは、学校にいるときじゃないとアタックできないのよ!!」

秋葉が意気込んで告げると、意地悪く舌をベっと出した。

「『幼馴染』だけチャンスが沢山あるなんてズルイじゃない」

そうだよね。

私の方が歩雪くんといられる時間は沢山あるけど、秋葉ちゃんはこの限られた時間しかないんだ。

今宵はしばらく呆けていたらしく、秋葉は声をかけた。

「雪村?何ボーっとしてんのよ」

「っへ?う、ううん。何でもないよ!!」

今宵は秋葉にヘラッと笑ってみせる。

そんな今宵を見て、秋葉は表情を変えて口を開く。

「っあんたねぇ!!・・・・・・何でもないわ」

「何?」

秋葉は何かを言いかけたが、口を噤んだ。

秋葉ちゃん、何を言おうとしたんだろ・・・。

「何でもないって言ってるでしょ!!さ、歩雪くんとの交友を深めに行こうっと」

秋葉は口元を緩めて見せると、既に席に着いている歩雪の隣へ腰を下ろした。

すると、今宵を呼ぶ声がした。

「ほら、今宵ちゃん!!戻っといでー!!」

紘が自分の席でぱたぱたと手招きしながら、今宵に声をかける。

「うん・・・・・・」

今宵は席に着くと、秋葉達に目を向けた。

すると、秋葉は歩雪に笑顔を向けながら、話しかけている。

歩雪も表情は変えないが、秋葉の言葉に返しているようだ。

「どうかした?今宵ちゃん」

紘が今宵の顔を覗き込みながら心配そうに尋ねる。

「ん?何でも無いよ」

今宵は手を振りながら紘に笑いかけた。

しかしその心の中は、ぐるぐると渦を巻いていた。

私、秋葉ちゃんに悪いことしてんじゃないのかな。

秋葉ちゃんに言われるまで考えもしなかったけど、私は他の女の子達よりも歩雪くんのずっと近くにいるんだ。

付き合ってもいないのに、こんなこと皆に失礼だよね。

秋葉ちゃんも含めて・・・・・・。

そしたら私は、どうすればいいんだろう―。

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