《MUMEI》 見えない弓矢デブンが歩み寄る。夏希から仕掛けた。高い位置にある顔面に左右のパンチ。しかし夏希の開いたボディにデブンが強烈なミドルキック! 「あっ…」 力が違い過ぎる。夏希は両手でおなかを抱えながら崩れるように両膝をついた。 「夏希チャン!」智文が叫ぶ。 デブンはそのまま夏希をうつ伏せにして背中に乗ると、夏希の左腕を取って逆関節を決める。 「あああ、あああ!」 降参は屈辱だから、夏希は脚をバタバタさせて暴れた。智文が来る。デブンは素早く離れた。 「大丈夫か?」 「いっつう…」 肘を押さえて痛がる夏希を見て、智文は怒りの表情だ。 「テメー、女の子によくも」 「その理屈は通らねえぜ!」 デブンが智文に殴りかかる。喧嘩なんかしたことない。必死に応戦するがデブンの左ボディ、右ジャブ、左エルボーと連打され半失神。美果が叫んだ。 「やめなよ!」 デブンはやめない。左膝で智文のボディから顔面! 「あああ!」 智文は両手で鼻を押さえながら仰向けに倒れた。 美果が出た。いきなりバッと弓矢のポーズ。デブンの動きが一瞬止まった。 美果は凄い形相でデブンを睨み、矢を引き絞る。 「何の真似だ?」 「あたしがなぜマジックを使わないかわかる?」 「何?」 「本当に怪我するからよ。スプーンが実際に曲がるのと同じ原理。この矢は刺さるわよ」 ハッタリか。しかしドアを通り抜ける女だ。侮れない。仙春美も男たちも、矢を向けられて怯んだ。 万が一嘘ではなかったら大変だからだ。 美果が言い放つ。 「あたしの大切な仲間を傷つけた。ならば多少の怪我は仕方ないわね?」 美果が歩み寄る。皆は下がった。 「待て」デブンが片手を出す。 「待たないわ。どこを狙ってほしい?」美果は矢を下に向けた。「そこ?」 「よせ」デブンは反射的に両手で下半身を防御した。 美果は、心の中で叫んだ。 (魔法よ、蘇れ!) 放つ。皆は一斉に頭を庇った。しかし矢は放たれない。 「ハッタリか?」 デブンが歩み寄るが美果は再び弓矢を向ける。デブンの足が止まった。 (お願い。魔法よ、蘇れ!) 放った。ダメだ。デブンはインチキと確信し、両拳を構えた。 「よくもそんなハッタリで時間稼ぐなあ。いい度胸してるぜ」 「ハッタリじゃないわ」美果はチョップを打つ構え。「こう見えてあたし、空手五段なんだけど」 「ド素人だということは構え見ればわかる」 「え?」 デブンが右ローキック。美果が尻餅をつくと左脚を掴んで立ったままアキレス腱固め。 「ぎゃあああ!」 美果が泣き顔。ムッとした智文はバキッと顔面キック。 「いい加減にしろよテメー」 智文に蹴られ、デブンは顔を押さえて片膝をつくと、怒りの声。 「おまえ何顔面マジに蹴ってんの?」 智文は緊張した顔で構えた。美果も夏希も心配顔。デブンは危ない目で智文を見すえた。 前へ |次へ |
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