《MUMEI》
不安
    〜麗羅視点〜


私を小走りで追いかけてきた真星は私の横まで来ると、私の顔を覗き込みニコリと笑顔を零す。


そして廊下に出ると真星は、私の肩をぽんぽんっと叩いた。


「偉いね」


真星の言葉に私はぶんぶんと大袈裟な程頭を振り呟く。


「・・・・・逃げただけだよ」


すると真星は、私の手をぎゅっと握り前を見据えたまま話始めた。


「中原くんに当たっちゃうかもしれないって思ったんでしょ?


逃げたんじゃないよ。


麗羅は自分のやり方で中原くんを守ったんだよ」


その証拠に、中原くん悲しい顔してなかったよっと付け足しながら真星は私の顔を覗き込んで笑う。


・・・・・・・・何で?


私の気持ちはそんなに綺麗なモノだけで出来てないよ?


でも真星の言葉にホッと胸を撫で下ろす。


歩の笑顔が曇ってないって分かったから、真星の言葉に癒されたから。


私の言葉や気持ち、行動をそんな風に受け取ってくれる人がいることに励まされる。


「・・・・・ありがとう」


私が呟くと真星はまたニコリと笑った。


真星と話してると、自分の駄目なところとか弱いところを前向きな気持ちで受け止められる。


もう歩に悲しい顔させないで済むように――真星が言ってくれたみたいに私のやり方で歩を守れるようになるために

私はもっと努力をしないといけないんだと思う。


歩だけじゃない、栄実や海、真星に対しても私はもっと頑張らなきゃいけない。


さっきのモヤモヤは、いつの間にか消えて強い気持ちが芽生えていた。


「真星、本当にありがとね!

そろそろホームルーム始まるね。教室戻ろっか」


私がそう言いながら真星に笑顔を向けと、真星も笑顔で頷く。


教室に戻ると、幸せそうな顔をして小泉と話している歩が目に入る。


ズキン――


鋭い痛みが私の胸を襲う。


痛みに顔が歪んでいたのか真星は、心配そうに私の顔を覗き込む。


心配そうな真星の顔を見て、さっき胸に抱いた強い気持ちを思い出し、大丈夫っと真星に笑ってみせる。


そんな私をみて真星は心配そうに微笑んだ。


キンコーンカンコーン


教室にチャイムが鳴り響き、自分の席に着く。


担任が教室に入ってきてホームルームを始めた。

担任の方を向いて話を聞いていたはずなのに、いつの間にか歩の方を見ている私がいる。


先程見た歩の幸せそうな顔――私には出来ないことを、小湊は簡単にやってのけるんだな。


何だか涙が出そうな位、そのことが羨ましく思える。


悔しいと言うよりも、羨ましかった。


そして怖かった。


何が怖いかも分からないのに、暗い陰が私の心を覆う。


どこか不安で仕方がない。


「麗羅?」


いきなり呼ばれて、肩がびくりと跳ねる。


いつの間にか俯いていた顔を上げると、心配そうに見つめる真星が居た。


――あれ?


キョロキョロと周りを見渡すと、みんな自分の席から離れ雑談をしている。


「あっホームルーム終わったんだ」


思わず零した言葉に、真星はツッコミをいれる。


「ホームルームどころか午前の授業終わったよ?」


お弁当の時間だよっと付け足しながら、私の向かいに座りお弁当箱を開く真星。


えっ嘘!?

さっきまで担任が教卓で話してて・・・


教卓に目をやると、そこに担任の姿はなく壁に掛けられた時計が、お昼の時間を指していた。


「ほら、早く食べようよ」


真星に促され、お弁当箱を鞄から出し食べ始める。

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