《MUMEI》
アグレッシブ2
小肥りの、見るも無惨な男がやってきた。小柄な秘書を連れている。

「ステルさん。わざわざお越しいただきまして」
リアシッラが頭を下げる。

「こいつは?」
顎で指す。

ウェルカのことだ。
今日はきっちり正装し、同席している。
「新しい秘書官です」

「男なんだ」
下卑た笑い。

「前はさ、婆さんだったよな。キレーな姉ちゃんにすればいいのに。なぁ」

「あまり綺麗な女性だと、気を張ってしまいますので」

「何言ってんだか」

必死の愛想も、一蹴される。

世の中は広い。
色んなやつがいるが、ここまで己の低能さを開けっ広げにしているのは珍しい。
低すぎて、人語が苦手なのだ。耐え切れそうにないとき、リアシッラはそう自分に言い聞かせて乗り切ってきた。

とにかく無駄口だらけで、手がかかる。何とか席につかせ、会談が始まった。

ちらとウェルカを窺うと、真顔のまま。

「先日ご指摘いただきました点、修正しました。こちらをご覧ください」

「あれね。こういうのはさ、お互いの兼ね合いが大切だからね」

「はい」

「そっちばっかあれこれ主張されちゃ困るのよ」

「申し訳ありません」
一体何度頭を下げたか。

チームメンバーの顔がよぎり、リアシッラの背を押した。
取引先として相応しくないのではないかという議論すらあった。そこを無理言ってここまでこぎつけたのだ。

簡単なプレゼンを終え、契約書を取り出す。もう少しというところで、ステルがまた口を開いた。

「あんたさ」
「はい」

ろくなことではない。
リアシッラは覚悟した。

「男にもてるだろ」

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