《MUMEI》
アグレッシブ5
「ウェルカ!!」

しんとした応接室に、リアシッラの怒号が響いた。

「護衛として君を雇ったんだ!客を殴れと、僕が言ったか!?」

ウェルカは目線を逸らしたまま、何も答えない。
ふたりして、ソファの横で仁王立ち。

「僕と、チームがどれだけ苦労したか…契約破棄どころか、これじゃ、どんな報復を受けるかわからない!」

リアシッラはヒートアップするばかり。

「時にはね、堪えなきゃいけないこともあるんだ!暴力なんて…軍兵はもっと、命令に忠実なものと思ってたよ!お前との契約も見直しだ」

そう言い捨てた途端、ウェルカの体が強張った。

「俺は!」

従順に黙るばかりだったウェルカが、大声を出した。圧倒され、リアシッラの頭が急速に冷える。

「俺は…」

拳を震わせている。
一歩近づいて俯いた顔を覗きこみ、リアシッラは驚愕した。

濃紺の瞳から、雫。

涙ぐむなんてものではない。大きな粒が、頬を伝い、ぱたぱたと胸を濡らしていく。

「俺は、若様を守るんだ…!」

絞り出された言葉が耳に届き、リアシッラの胸が締め付けられるように痛んだ。罪悪感だった。

「…若様を」」
「ウェルカ」

すとん。
全てが落ちた。

軍を抜け、ベルカ社にやってきた理由。リアシッラを守る理由。ミンクが明言しない理由。ステルを殴った理由。

「ウェルカは」

自然と、頬に触れていた。
とめどない涙を拭う。

「…僕のことが、好きなのか」

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