《MUMEI》

その姿を見、正人が何となくだが苦手らしい滝川が、怪訝な顔をして向けた
「……そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。それより、深沢さん、どうかしたんですか?」
顔色が悪い、との指摘に
だが状況理解出来ていないのは滝川も同じで
解らない、と緩く首を振って見せた
「幻影も何故か萎れたようになっているし。一体、どうしたんです?」
ゆるり深沢へと歩み寄ってくる正人
深沢の顔をまじまじ眺め、そして
何か感付いたのか深く溜息を吐く
「……何か、有ったようですね。深沢さん、あなたの眼、ひどく濁って見える」
弱々しく横たわる幻影と、深沢の様に
「深沢さん。話して戴けませんか?」
わざわざその深沢を起こし、詳しい説明を求める
身体を揺さぶられ、深沢はゆるり眼を覚ました
「……テメェ、此処で何してる?」
正人を見るなり、深沢もまた怪訝な顔
だが当の本人はその事をさして気に掛けることもなく、説明を深沢へと改めて求めてくる
互いに交わす会話は一方的で
仕方なく深沢は、遭った事の全てを正人へと話す事を始めていた
「……蝶が、住まう村、ですか」
大方を聞き終えると、正人は暫く考え込み
押して何を言う事無く徐に立ち上がると
「興味が、ありますね。深沢さん、僕をぜひ其処へ連れて行ってくれませんか?」
深沢の腕を引いた
無理やり身体を起こす羽目になった深沢
まだ身体が怠いのか、辛そうなその深沢の様子を見、滝川は正人を止めに入る
「や、止めろってば!」
「滝川君?」
正人の手を振り払い、睨みつける滝川へ
何故邪魔をするのかと、正人は困惑気な顔だ
暫く無言で対峙する二人
その沈黙は、すぐ後に聞こえてきた深沢の溜息によって破られた
「……案内、すりゃいいんだろ。さっさと行くぞ」
正人が乗ってきたらしい車の鍵を指で弄りながら深沢はベッドから降りる
まだ若干ふらつく身体を案ずる滝川へと微かに笑ってやり
深沢はその手を引いた
車へと皆が乗り込み走り始めた、暫く後
「……でも、また同じところに辿り着けるとは限らないと思うけど」
滝川のその言葉に
正人はだが何の反論も返す事もせず唯肩を揺らしながら
「大丈夫、ですよ。滝川君。多分、ね」
「何で、そう言い切れるんだよ?」
根拠なく自信有りげな正人へ
怪訝な顔を向けて見せるが返答はない
結局、正人はそれ以上何を話す事もせず
深沢達を引き摺って、さっさとその場を後にしたのだった……

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