《MUMEI》 「へぇ。君が(フェアリー テイル)の持ち主か」 街の雑踏の中にそびえ立つ超高層ビル その最上階にある一室のドアを、本城 基は無遠慮に脚で蹴り開けていた その部屋の主は、突然の本城の登場にやはり驚いた様な顔 「あなた、誰?」 日本人とは若干異なる日本語のアクセントに 本城は相手の顔をまじまじ眺めながら 「……僕は本城 基。君に、用があってね」 「私、に?」 「そう。とにかく、僕と一緒においで」 矢継ぎ早に用件を言ってやり 返答も聞く事をせず、相手の身体を肩へと担ぎあげていた ふわり靡く漆黒の髪から、仄かに香る花の香 それに誘われるように、本城はその髪へと指を触れさせた 何度も柔らかく髪を梳く本城の指 手荒かったのは出会いのほんの一瞬 まるで壊れモノでも扱うかの様に本城の指は優しくその髪に触れる 「本当に、綺麗だね」 「え?」 本城の呟くような声に、相手は何の事かを思わず聞いて返す 虚をつかれた様なその顔に、本城は微かに肩を揺らした 「知らないの?君の髪には莫大な懸賞金が懸かってる事」 「私の、髪に?」 「そう。君、何故自分があんな所に閉じ込められていたのか何も聞かされてない訳?」 どうも話が噛み合わない様に、本城は怪訝な顔 自身を責める様な言葉を向けられ、顔を俯かせてしまう相手に 本城は溜息を僅かについた 「……別に君を責めているわけじゃないよ」 それだけを務めて穏やかに言ってやり、本城は相手を抱えたまま歩く事を始めていた 部屋を一歩出てみれば 廊下の至るところに倒れ伏している人の山が 「……何が、あったの?」 目の前の惨状に引き攣った様な声 怯えている様な相手へ、本城はその眼を手で覆い景色を遮っていた 「今は、何を見る必要もないから。君は黙って僕に連れて行かれればいい」 随分な勝手を言う本城へ、相手はどこへ行くのかを問うていた 「それを聞いて、君どうするの?」 「どうするって……」 「聞いてすぐに、僕の腕を振り払って逃げる?」 嘲笑う様な本城へ 相手は首をゆるり横へ振りながら 「……そんな事、出来ない」 頼りない答え 予想通りの返答に肩を揺らした 「だろうね。まぁ、借りに出来たとしてもしない方が賢明だ」 殺されたくなければ、と後に続いた言葉に 相手の身体が震えたのが知れる その反応に、本城は軽く肩を揺らし屋敷の外へ 出るなり 本城の脚がピタリと止まり、担ぎあげていた身体を徐に降ろす 「な、何……?」 何事かを伺ってくる相手 本城は自身の上着を脱いで捨て 彼女に目の前の惨状を見られない様、返答してやる代わりにソレを上から落としてやるように被せてやった 「基さん。目標は確保できたみたいですね」 暫く立ち尽くしていると背後からの声 ゆるり振り向いた本城は、その声の主へと無表情をむけ、彼女の身柄を放り出す様に渡していた 「……仕事は、終わらせた。じゃ、僕は帰るから」 後はよろしく、とその場を後に しようとした矢先、何故か引き留められていた 「何?仕事は終わった。これからは僕が何をしようが勝手だと思うけど?」 さっさと帰りたいのだと言外に含ませ だがその主張は珍しく却下された 「すいません。このあと屋敷の方まで来てほしいんです」 話したい事があるから、と訴えられ 一瞬迷った本城だったが、仕方がない と溜息で返す 「……仕方ないね。ボスの言葉には絶対服従だ」 「有難う御座います。基さん」 「一旦、部屋に戻ってもいい?流石に汚れたままじゃ、嫌だからね」 言い終わると同時に踵を返せば だがソレを引きとめるかの様に何かに服の裾が掴まれた 「ん?」 何かとそちらへと向いて直れば 本城の服を掴んでいたのは今し方攫ってきたばかりの相手 その突拍子のない行動に、周りの人間は慌て始める だが 「……何か、僕に用?」 回りが想像していたのとは180°違う穏やかな返しだった 「……何所、行く?」 上目づかいに本城へと向けられるか細い声 一向に離す様子のない手をちらり横眼見ながら 「僕の話、聞いてなかった?帰るんだよ」 端的に言って返す 益々掴んでくる手を振り払おうとすれば、相手はどうしてか嫌々とかぶりを振る 「……着替えに帰ってくるだけだよ。すぐに戻る」 前へ |次へ |
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